五輪塔(ごりんとう)は、日本各地の寺院や墓地に見られる石塔のひとつで、5つの異なる形の石を重ねて作られています。インドや中国・朝鮮には見られない、日本独自の石塔として知られており、古くから供養塔・墓碑として貴人から庶民まで幅広く用いられてきました。仏教(密教)が説く宇宙の構成要素「五大」を象徴した、信仰と造形が一体となった石造物です。

名前の由来

「五輪塔」の「五輪」とは、仏教(密教)における宇宙の五つの構成要素「五大(ごだい)」——地・水・火・風・空——のことです。古来、仏教では宇宙のあらゆるものがこの五大によって成り立つと説かれており、五輪塔はそれぞれを異なる形で表した5段の石を積み重ねた構造をしています。

「輪(りん)」とは本来、梵語で「円盤」を意味する「チャクラ」の訳語ですが、日本では各段の石を「輪」と呼ぶ習慣が定着しました。

歴史と起源

五輪塔は日本生まれ

五輪塔はインドや中国・朝鮮半島には見られない、日本独自の石塔様式です。密教の「五大思想」を立体的・視覚的に表現するために、日本で独自に生み出されたと考えられています。

現存する最古の五輪塔は、銅製で1085年(応徳2年)のものが知られており、石造としては1157年(保元2年)のものが最古とされています。いずれも平安時代末期のことです。

覚鑁上人と五輪塔の普及

五輪塔の普及に大きく貢献したのが、真言宗の僧侶・覚鑁上人(かくばんしょうにん、1095〜1143年)です。覚鑁上人は著書『五輪九字明秘密釈(ごりんくじみょうひみつしゃく)』のなかで、「五輪塔に遺骨を納めることで、故人は必ず成仏し極楽往生できる」という教えを説きました。

この教えが高野山の聖(ひじり)たちによって諸国に広められたことで、鎌倉時代以降に石造の五輪塔が急速に普及しました。武家・公家をはじ�とする上層階級が先祖供養のた�に建立し、室町・江戸時代を通じて広く庶民にも用いられるようになりました。

5つの輪が表すもの

五輪塔を構成する5段の石にはそれぞれ名称・形・象徴する元素・色が定められています。下から順に積み重なる構成です。

名称説明
空輪(くうりん)最上部。宝珠(ほうじゅ)の形。「空」——あらゆるものを超えた真理の世界を表す。五大のなかで最も高い位置づけ
風輪(ふうりん)上から2番目。半球(かまぼこ)の形。「風」——生命を動かし、呼吸を与える力を表す
火輪(かりん)中央より上。四角錐(屋根型)の形。「火」——変化・浄化・昇華の力を表す。笠(かさ)とも呼ばれる
水輪(すいりん)中央。球形(たまご型)の形。「水」——すべてを包み込み、育む力を表す
地輪(ちりん)最下部。四角柱の形。「地」——大地のように揺るぎない安定を表す。戒名・法名・梵字などが刻まれることが多い

地・水・火・風・空という五大が積み重なることで、「故人が宇宙の根元に還り、極楽浄土に往生する」という仏教的な死生観が石の形として表されています。

宗派と五輪塔

刻まれる文字の違い

五輪塔はもともと真言宗・天台宗などの密教系宗派と深く結びついた石塔です。地輪(最下部)に刻む文字は宗派によって異なります。

宗派地輪に刻む文字の例
真言宗梵字(五輪塔を表す「ア・ヴァ・ラ・ハ・カ」の五字、または「ア」字など)
天台宗・日蓮宗南無妙法蓮華経(または梵字)
浄土宗南無阿弥陀仏(または梵字)
曹洞宗・臨済宗南無釈迦牟尼仏(または梵字)

浄土真宗と五輪塔について

浄土真宗では、「亡くなった方はすでに阿弥陀仏のはたらきにより即座に成仏される」という教義から、追善供養(故人のために行う法要・供養)を行いません。そのため、供養塔としての性格を持つ五輪塔や卒塔婆(そとば)は原則として使用しません。浄土真宗の墓地では、一般的な竿石型のお墓が用いられます。お客様の宗派が浄土真宗の場合は、事前にご確認ください。

五輪塔の現代における使われ方

今日では宗派の枠を超えて、旧家・名家や寺院の歴代墓、先祖累代の供養塔として広く建立されています。「通常のお墓とは別に、古い先祖を一括して供養するための塔」として、墓地の一角に建てられるケースも多く見られます。

古い五輪塔のなかには、鎌倉・室町時代に建立されたものが国・都道府県・市区町村の重要文化財や史跡に指定されているものも多く、石造文化財としての価値も高いものです。

宝篋印塔と並んで、日本の石塔文化を代表する形のひとつです。外見上の最大の違いは笠の「隅飾(すみかざり)」の有無で、四隅に突起があれば宝篋印塔、5段の石を重ねた形であれば五輪塔です。

五輪塔のご相談



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