今見かけるお墓の多くは、縦長の石に家名を刻んだ「竿石型」です。しかし日本には鎌倉時代から、それとはまったく形の異なる石塔が数多く作られてきました。五輪塔・宝篋印塔・板碑・笠塔婆——形はそれぞれ違いますが、いずれも中世の日本で独自に発展した石造文化の産物です。旧家の墓地や寺院の境内に今も静かに立つこれらの石塔は、各時代の石工たちが腕を競った、日本の石造美術を代表するものでもあります。

石塔・供養塔の種類

五輪塔

ごりんとう

形の異なる5つの石(方形・球形・三角・半球・宝珠)を重ねた石塔。インドにも中国にも朝鮮にも同じ形は存在しない、日本独自の様式とされる。平安末期に生まれ、鎌倉時代に石造が急速に全国へ広まった。現存最古の石造は奈良・春日山(1157年)。

最古の石造:奈良春日山(1157年)

宝篋印塔

ほうきょういんとう

笠の四隅に「隅飾(すみかざり)」という突起を持つ石塔。原型は10世紀・中国の呉越王が作った金銅塔で、鎌倉時代初期に日本へ伝わった。律宗の僧・叡尊と忍性が全国に布教する過程で石造の大型塔が急増し、鎌倉後期には優れた作例が多数造立された。

現存最古の在銘例:鎌倉出土(1248年)

板碑

いたび

薄い板状の石に梵字・仏像・没年などを刻んだ石造物。秩父青石(三波川結晶片岩)を素材としたものが多く、鎌倉〜江戸初期にかけて関東地方を中心に大量に造られた。造立年月日の刻銘が残るものが多く、地域の歴史を知る手がかりにもなっている。

分布:関東地方を中心に全国に現存

笠塔婆

かさとうば

円柱または角柱の軸石の上に、笠(屋根状の石)を重ねた石塔。木製の卒塔婆を石で表現したもので、別称「石卒塔婆」とも呼ばれる。鎌倉時代から造られ始め、関東・東海地方に多く分布する。

別称:石卒塔婆(いしそとば)

宝塔

ほうとう

球形または円筒形にふくらんだ塔身をもつ一重の石塔。法華経に登場する「多宝塔」に由来するとされ、天台宗・真言宗の寺院に多くみられる。多宝塔(二重塔)と形が似るが、宝塔は一重である点で区別される。

宗派:天台宗・真言宗に多い

層塔

そうとう

方形の塔身を複数重ねた多層式の石塔。三重・五重・七重・九重・十三重など奇数の層をもつ。奈良時代の木造大塔に源をもち、鎌倉時代以降に石造が全国に広まった。十三重石塔が代表的な形式とされる。

代表例:般若寺十三重石塔(奈良・鎌倉時代)

石塔が広まった背景

鎌倉時代——石工たちが全国を動いた時代

石塔が日本中に広まった背景には、腕利きの石工集団の存在があります。鎌倉時代、宋(中国)から渡来した石工の子孫とされる「伊派(いは)」と、そこから分かれた「大蔵派(おおくらは)」が二大勢力として活躍しました。

特に大蔵派は、律宗の僧・忍性とともに鎌倉へ下り、関東一円に石塔を広めました。奈良の西大寺を拠点とした叡尊・忍性の律宗ネットワークが全国へ展開する中で、石造の五輪塔・宝篋印塔の様式も一緒に伝わっていったのです。大蔵派の石工たちは鎌倉幕府が滅びた1333年を境に歴史から姿を消しますが、その後は各地の石工が地域の特色を加えながら石塔を作り続けました。

時代とともに変わる形

鎌倉時代の石塔は、火輪(三角の部分)の勾配が急でシャープな印象の「鎌倉型」が多く、全体的に引き締まった造形です。室町時代以降になると地方の石工が作る量が増え、装飾が増す一方で細部の彫りが浅くなるなど、時代が下るにつれて様式が少しずつ変化していきます。宝篋印塔の隅飾が江戸時代に大きく外へ反り返るようになるのも、こうした変遷のひとつです。

「どの時代に作られた石塔か」は、形と素材から大まかに判断できます。旧家に残る石塔の年代が気になる場合は、お気軽にお問い合わせください。

竿石型のお墓が普及した江戸時代

江戸時代に幕府が寺請制度を整えると、すべての民衆がいずれかの寺院の檀家として登録されるようになりました。それに伴い「○○家之墓」と家名・戒名・没年を刻んだ竿石型の墓石が急速に普及し、石塔は新たに建てるものというよりも、旧家や寺院に代々受け継がれるものとして残るようになっていきました。

現代の墓地でよく見る縦長の竿石型のお墓は、意外にも江戸時代以降に普及した比較的新しい形です。五輪塔・宝篋印塔はそれより400〜500年古い歴史を持っています。

竿石型のお墓との違い

区分成立した時期普及した背景
石塔・供養塔(五輪塔・宝篋印塔など)平安末期〜鎌倉時代密教の広まり・律宗の全国展開・石工集団の技術
竿石型のお墓(和型・洋型)江戸時代以降寺請制度による家単位の檀家制度の確立

宗派と石塔・供養塔

石塔はもともと密教系の宗派(真言宗・天台宗)と深いつながりがありましたが、律宗が全国に広めたこともあり、現代では宗派を問わず多くの寺院や旧家に残っています。建立する際に刻む文字は宗派によって違いがあります。

宗派石塔の使用刻む文字の例
真言宗五輪塔・宝篋印塔ともに多用梵字(ア字・五輪の種字など)
天台宗五輪塔・宝篋印塔ともに使用梵字・南無阿弥陀仏など
曹洞宗・臨済宗五輪塔が多い南無釈迦牟尼仏・梵字など
日蓮宗五輪塔・宝篋印塔ともに使用南無妙法蓮華経
浄土宗五輪塔・宝篋印塔ともに使用南無阿弥陀仏
浄土真宗原則として使用しない—(竿石型のお墓を使用)

よくあるご質問

既存のお墓の隣に石塔を建てることはできますか?

はい、可能です。ただし霊園・寺院の管理規則によって制限がある場合もありますので、管理者への確認が必要です。光徳石材では現地確認を含めてご相談を承っております。

五輪塔と宝篋印塔、どちらを選べばよいですか?

地域の慣習や、すでに墓地にある石塔の様式に合わせて選ばれることが多いです。歴史的には関東では宝篋印塔、関西・中部では五輪塔がやや多い傾向があります。どちらにすべきか迷われる場合はお気軽にご相談ください。

古くなった石塔の修復・クリーニングはできますか?

はい、対応しております。苔・黒ずみの除去(クリーニング)、部分的な補修・接着、倒壊の恐れがある石塔の解体・再建立まで、状態に応じた方法をご提案いたします。まずは写真をお送りいただくか、現地にてご確認させていただきます。

「家にある古い石塔が何なのかわからない」という場合も相談できますか?

もちろんです。写真をお送りいただくか、現地確認の上、種類・時代・状態などをお伝えします。形や素材から造立時期の目安をお伝えできる場合もあります。

石塔に使われる石材にはどのようなものがありますか?

現代の新規建立では耐久性の高い御影石(花崗岩)が主流です。古い石塔では地域産の石材(板碑なら秩父青石、関西なら花崗岩・凝灰岩など)が使われているものも多くあります。石種が年代判定の手がかりになることもあります。


石塔・供養塔の新規建立・修復・クリーニング・調査についてのご相談は、光徳石材までお気軽にどうぞ。「どの種類が合っているかわからない」「家の石塔が何なのか確認してほしい」など、どんなご相談も歓迎しております。名古屋・愛知を中心に対応しております。

名古屋の墓地と墓石の風景

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